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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)55号 判決 1999年3月11日

奈良県北葛城郡河合町大字川合101番地の1

原告

株式会社ヒラノテクシード

代表者代表取締役

中川久明

訴訟代理人弁理士

蔦田璋子

蔦田正人

大阪市西区西本町1丁目10番10号

被告

井上金属工業株式会社

代表者代表取締役

井上忠義

訴訟代理人弁護士

内田敏彦

同弁理士

後藤文夫

主文

特許庁が平成7年審判第17311号事件について平成9年2月21日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

主文と同旨

2  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「熱処理装置」とする特許第1909690号の発明(平成2年3月26日出願、平成6年5月11日出願公告、平成7年3月9日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。

原告は、平成7年8月11日、被告から、本件特許の無効の審判の請求を受け、平成7年審判第17311号事件として審理され、その間の平成8年6月26日に願書に添付した明細書の訂正をすることについて審判を請求したが(以下、同訂正を「本件訂正」といい、その審判請求を「本件訂正請求」という。)、平成9年2月21日に本件訂正請求は不適法であるということを前提として「特許第1909690号発明の明細書の請求項第1項に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を受け、平成9年3月3日にその謄本の送達を受けた。

2  特許請求の範囲

(1)  設定登録時における明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載

「熱処理室であるケーシングに設けられた空気の取入れ口、排出口及び空気を循環させる送風装置と、送風装置からの風を加熱する加熱装置と、前記ケーシングの前後方向に走行する布帛等の帯状物に対し幅方向に延在しかつ帯状物との対向面に吹出し口を有した複数個のノズルボックスと、加熱装置からの熱風を複数個の前記ノズルボックスへ送るダクトとよりなる熱処理装置であって、送風装置を帯状物の幅方向の中心における上方または下方の少なくとも一方に配し、複数個のノズルボックスを帯状物の長手方向に所定の間隔を開けて配列させ、各ノズルボックスにおける吹出し口とは相対向する面の幅方向の中央部にダクトとの連結口を設け、ダクトをノズルボックスの幅方向より狭く設けると共に、複数個のノズルボックスの連結口とを連結させたことを特徴とする熱処理装置。」

(2)  本件訂正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載

「熱処理室であるケーシングに設けられた空気の取入れ口、排出口及び空気を循環させる送風装置と、送風装置からの風を加熱する加熱装置と、前記ケーシングの前後方向に走行する布帛等の帯状物に対し幅方向に延在しかつ帯状物との対向面に吹出し口を有した複数個のノズルボックスと、加勢装置からの熱風を複数個の前記ノズルボックスへ送るダクトとよりなる熱処理装置であって、前記送風装置の吸込み口を、前記ケーシングの天井部及び底部における帯状物の幅方向の中心において水平にそれぞれ設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方へ向け、複数個の上下ノズルボックスを、帯状物の上下においてその長手方向に所定の間隔を開けてそれぞれ配列させ、前記ダクトを、帯状物の幅方向の中央部において、帯状物の長手方向に沿って前記上ノズルボックスの上部及び前記下ノズルボックスの下部にそれぞれ設け、各ノズルボックスにおける吹出し口とは相対向する面の幅方向の中央部にダクトとの連結口を設け、ダクトをノズルボックスの幅方向より狭く設けると共に、複数個のノズルボックスの連結口と連結させたことを特徴とする熱処理装置。」

3  審決の理由

審決の理由は、別添審決書の理由の写しのとおりであって、要するに、本件訂正は、本件発明の設定登録時の明細書及び図面(以下、同明細書を「本件明細書」、同図面を「本件図面」という。)に記載されていない新たな技術事項によって特許請求の範囲を限定するものであって、特許請求の範囲を変更するものであるから、不適法であるところ、本件訂正前の本件発明の請求項1は、審決書に摘示する刊行物に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件発明の請求項1の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、特許を受けることができないとするものである。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由中、本件訂正請求が不適法とされた場合に、本件発明の請求項1が上記各刊行物から当業者が容易に発明することができたものであることは認め、本件訂正が本件明細書及び本件図面に記載されていない新たな技術事項によって特許請求の範囲を限定するものであって、特許請求の範囲を変更するものであるとの点は争う。

(1)  審決は、本件明細書及び本件図再によって、本件発明の請求項1に係る送風装置の吸込み口の設置されている位置や方向が明瞭ではないから、前記2(2)中の「送風装置の吸込み口を、前記ケーシングの天井部及び底部における帯状物の幅方向の中心において水平にそれぞれ設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」という構成は、本件明細書及び本件図面に記載されていない新たな技術事項によって特許請求の範囲を限定するものであるとするが、この認定判断は、誤りである。

すなわち、本件図面第2図(別紙図面参照。以下同じ)によれば、天井部に設けられた符号20で示される送風装置ないしファンの下部には、その形態から明らかに羽根車と認識できる部材が、同じくその形態からして明らかに軸と認識できる部材により中心が支持されていることが認められる。また、上部ダクト34aの壁部は、羽根車の真下の位置において、ハッチングによりその断面が表示されていないから、上記羽根車の真下の位置において開口していることが明らかである。そして、上記開口部の周縁は、断面U字形に上方に折り返されているところ、このようなU字形の折返し部は、送風機において空気を流入させるための案内部材として周知の形態であって、これらを総合して考えると、本件図面第2図における開口部は、送風装置ないしファン20の吸込み口に相当することが明らかである。このことは、底部に設けられた符号22に示される送風装置ないしファンについても同様である。

次に、送風機には軸流送風機と遠心送風機との2種類があり、本件発明において用いる送風装置ないしファン20は、ダクト34を介してノズルボックス24に送風するものであるから、空気は、前記開口部において、下方から上方に吸い込まれるものでなければならないから、軸流送風機ということはあり得ず、遠心送風機であって、送風装置ないしファン20の吸込み口は、吸込み方向を下へ向けて配設されているものである。

更に、熱処理装置は、本件図面のすべての図において、水平に設置された状態で図示されており、吸込み口も水平に配されているところ、本件図面は、発明の具体的な実施例を示すものであるから、格別の理由がない限り、図において熱処理装置が水平に示されている以上、実施例において熱処理装置が水平に配置されていることを意味し、その天井部又は底部と平行な吸込み口も水平に配されていることは明らかである。

したがって、本件明細書及び本件図面には、送風装置の吸込み口を水平に設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方へ向けた構成が示されているのである。

(2)  被告は、吸込み口が「水平」であることは本件図面第2図から明瞭でないと主張するが、上記のとおり天井部又は底部と平行な吸込み口も水平に配されていることが明らかであるのみならず、熱処理装置のほとんどは、水平に設置されており、アーチ式ないし順次傾斜の配置のものは例外的であるところ、本件発明においては、アーチ式ないし順次傾斜の配置のものも含ませることを意図しておらず、熱処理装置ないしケーシングが水平に配されたものに限られているのである。

そもそも、布帛用の熱処理装置は、大型の機械であって、水平状態に設置して使用するのが普通であって、特許請求の範囲において熱処理装置の設置姿勢につき格別の記載がない限り、これは、水平に配されていると理解するのが自然である。

(3)  また、被告は、本件訂正に係る「天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け」との表現について、これは空気を上方から下方に向かう方向に吸込むことを意味すると主張するが、上記表現は、吸込み口が、空気が下方から上方に吸い込まれるように下向きに設けられている状態を端的に示しているものであり、仮に上記表現が十分な明瞭さを欠くとしても、本件図面第2図を参酌することにより、吸込み口は、空気が下方から上方に吸い込まれるように下向きに設けられていることを理解することができる。

第3  請求の原因に対する被告の認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。審決の認定判断は、正当であって、取り消されるべき理由はない。

2  被告の主張

(1)  本件訂正請求に係る「送風装置の吸込み口を、前記ケーシングの天井部及び底部における帯状物の幅方向の中心において水平にそれぞれ設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」という構成は、本件明細書及び本件図面から明らかでない。

すなわち、上記「吸込み口」が本件図面第2図のどの部分を指すのか必ずしも明瞭でないのみならず、仮に上記「吸込み口」が原告主張の開口部であるとしても、第2図から明らかであるといえるのは、同「吸込み口」が、ケーシングの天井部又は底部と平行になっていることのみであって、当該吸込み口が「水平」になっていることまで明瞭であるとはいえない。

また、本件発明の属する技術分野において、本件発明の熱処理装置と同様に布帛等の帯状物に熱風を当てて熱処理及び乾燥を行う熱処理装置の配置様式としては、従来から、水平配置のほかにアーチ式配置、順次傾斜配置が知られていた。

一方、本件明細書においては、装置各部の位置や方向に関して、「ケーシングの前後方向」、「帯状物の幅方向」、「帯状物の長手方向」といったケーシング又は帯状物との関係について相対的表現をしているのであって、これにより、本件発明の熱処理装置が傾斜して配置された場合にも、装置内部の各部相互の位置関係は不変であることを暗に示しているのである。

要するに、本件明細書及び本件図面においては、ケーシング又は帯状物との相対関係において位置や方向を規定しているのであって、地球の重力と直交する方向を意味する「水平」の概念を読み取ることはできない。

(2)  また、本件訂正請求に係る「天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方に向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」という構成は、その表現からして、動作対象である空気を上方から下方に向かう方向に吸い込むことを意味するものであるところ、このような構成が本件明細書及び本件図面から明瞭とはいえない。仮に本件図面第2図の開口部が原告主張の吸込み口であるとしても、その天井部にある吸込み口は、吸込み方向を上方に向けて空気を吸い込んでいるものであって、「天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方に向け」というものではない。

(3)  原告は、布帛用の熱処理装置は、大型の機械であって、水平状態に設置して使用するのが普通であるとの理由で、本件発明においては、熱処理装置は水平に配されていると理解するのが自然であると主張する。

しかし、本件発明は、「布帛等の帯状物」用の熱処理であって、「布帛」用の熱処理に限定されておらず、布帛以外の帯状の紙、フィルムあるいはこれらの複合物、加工物等の帯状物を処理対象とする熱処理装置においては、その大部分が比較的小型のものであって、水平状態での設置姿勢ではなく、アーチ式配置又は順次傾斜配置されるのが一般的であって、水平装置の方が例外である。そして、本件明細書においては、特許請求の範囲の記載中にも発明の詳細な説明の記載中にも、熱処理装置の姿勢に関する記載は一切ないのであるから、本件発明が熱処理装置ないしケーシングが水平に配されたものに限られるものでないことは明らかである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、特許請求の範囲の請求項1、審決の理由)は当事者間に争いがない。

第2  本件発明の概要

甲第5号証によれば、本件明細書には、次の記載があることが認められる。

1  産業上の利用分野

「本発明は、布帛等の帯状物に熱風をあてて熱処理及び乾燥を行う熱処理装置に関するものである。」(1頁2欄13行及び14行)

2  従来の技術

「従来より、上記構成の熱処理装置としては、熱処理室であるケーシングの内部において処理すべき布帛等の帯状物を一定の方向に走行させ、この帯状物に熱風を当てて熱処理すなわち乾燥を行っている。」(2頁3欄1行ないし4行)

3  発明の目的

従来の技術には種々の問題点があったところ、「本発明は上記問題点に鑑み、ケーシング内部の構造を簡単にすると共に、帯状物に関し、過乾燥等の問題が起こらないようにした熱処理装置を提供するものである。」(同頁4欄21行ないし23行)

4  構成

本件発明の請求項1は、上記の目的を達成するために、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1記載の構成を採用するものである。

5  作用

「上記請求項1の熱処理装置であると、送風装置によって起こされた風は、加熱装置を経ることによって所定温度の熱風となり、ダクトを経て、複数個のノズルボックスに送られる。このノズルボックスは、帯状物の長手方向に所定の間隔を開けて配列しているため、走行する帯状物にまんべんなく熱風が当てられる。帯状物に当たった熱風すなわちリターンエアーは、隣接するノズルボックスの間を通って、ダクトの脇を通り送風装置に戻る。この場合に、ダクトの幅がノズルボックスの幅より狭く構成されているため、リターンエアーが送風装置に戻る際に障害とならない。」(同欄46行ないし3頁5欄6行)

6  発明の効果

「本発明の請求項1の熱処理装置であると、次のような効果がある。

<1>  1つのダクトに対して、送風装置と加熱装置とが1つであるため、その構造が簡単となる。

<2>  ノズルボックスの幅よりもダクトの幅が小さく設けられているため、リターンエアーが送風装置に戻り易く、また、帯状物にまんべんなく熱風が当たると共に、そのリターンエアーも帯状物を引張ったりするようなことがない。」(4頁8欄11行ないし19行)

第3  まず、本件訂正請求の適否について判断する。

1  本件訂正に係る「送風装置の吸込み口を、前記ケーシングの天井部及び底部における帯状物の幅方向の中心において水平にそれぞれ設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」という構成が本件明細書及び本件図面中に開示されているか否かについて検討する。

(1)  「吸込み口」について

(イ) 甲第4号証(昭和54年4月10日株式会社オーム社発行「100万人の空気調和」第1版第6刷)には、「熱を運ぶもの」の項目において、「空気の運び屋…送風機」の見出しで、「空気を運ぶ送風機は大きく分けて2種類のものがあります。その一つは扇風機や換気扇に代表されるように、プロペラ形の羽根を回転させ、その軸の方向に向けて風を送るもので、軸流送風機と呼ばれています、(図5・12)。また、もう一つは田園地方でみかける水車のような形をした鋼鉄製の羽根車を勢いよく回転させ、その遠心力で、羽根車の回転する方向に向けて送風するもので、遠心送風機と呼ばれています(図5・13)。」(129頁7行ないし15行)との記載があり、そして、同号証の「図5・12軸流送風機」においては、プロペラ形の羽根を回転させ、その軸に沿って羽根の前後に空気の吸込み口と吹出し口が設けられた軸流送風機が図示されており、他方、「図5・13各種の遠心送風機」においては、Ⅴプーリにより軸受を回転させて羽根車を回転させるものであるが、軸受と対向する面に吸込み口が設けられ、吐出口は軸受と直角の方向に設けられている遠心送風機が図示されていること、同号証に係る書籍は、「100万人の空気調和」とのタイトル及び記載内容からみて、空気調和技術者に向けられた一般的な解説書といいうるものであることが認められる。

上記認定の事実によれば、甲第4号証に記載されているような軸流送風磯及び遠心送風機は、本件発明の特許出願当時、周知技術となっていたものと認めるのが相当である。

(ロ) ところで、甲第5号証によれば、本件明細書中には、本件発明の実施例の説明として、「符号20は、ケーシング12の天井面に設けられたファンであり、符号22は、ケーシング12の底面部近傍に設けられたファンである。このファン20、22は、ケーシング12の前面にある排気口28aから空気を排出し、後面の吸気口28bから空気を取入れる。」(3頁5欄22行ないし26行)、「符号34は、ダクトであって、ファン20からノズルボックス24に風を送るためのものである。このダクト34は上部ダクト34aと下部ダクト34bとに分かれ、上部ダクト34aはケーシングの天井面のほほ中央部に設けられたファン20の風の送出口からケーシング22の前面部に向かって延びている」(同欄38行ないし43行)、「ファン20によって風を起し、次にダクト34の中を・・・下部ダクト34bに送る。熱交換器36によって熱風になった風は複数個のノズルボックス24の吹出し口30から走行する布帛Fの上面に吹付けられる。布帛Fに吹付けられた後の風、すなわちリターンエアーは隣接するノズルボックス24、24の間を通って、上方に向かい、下部ダクト34bの両側を通ってケーシング12の天井部に設けられたファンの位置に戻ってくる。」(4頁7欄11行ないし20行)、「また、ファン22によって起された風もダクト48の中を通り、・・・上部ダクト48bに至る。熱交換器52によって加熱された風は、上部ダクト48bを経て、複数個のノズルボックス26から布帛Fの下面に吹付けられる。そして、このリターンエアーは隣接するノズルボックス26、26との間を通って、上部ダクト48bの脇を通って、ファン22に戻ってくる。」(同欄24行ないし31行)という記載があり、また、本件図面第2図によれば、本件発明の一実施例として示されている熱処理装置において、ファン20の下部には、羽根車と軸が存し、同羽根車の下方には、上部ダクト34aの開口部が存在すること、同様に、ファン22の上部には、羽根車と軸が存し、この羽根車の上方には上部ダクト34bの開口部が存在することが認められる。

(ハ) 上記周知技術、本件明細書及び本件図面の記載によれば、本件発明の一実施例として示されている熱処理装置において、ケーシング12の天井面に設けられたファン20は、その下部にある羽根車の回転によって、同羽根車の下方の開口部から空気を取り入れて、これをダクト34に送り出すものであって、このファンの作用によって、上記開口部から羽根車に取り入れられた空気は、ダクト34を通過して、その間に熱交換器36によって加熱され、ノズルボックス24から布帛Fに吹き付けられ、その後、ダクト34の外側を通過して、再び、上記開口部から羽根車に取り入れられるという循環を繰り返すものと認められ、同様に、ケーシング12の底面部近傍に設けられたファン22は、その上部にある羽根車の回転によって、同羽根車の上方の開口部から空気を取り入れて、これをダクト48に送り出すものであって、このファンの作用によって、上記開口部から羽根車に取り入れられた空気は、ダクト48を通過して、その間に熱交換器52によって加熱され、ノズルボックス26から布帛Fに吹き付けられ、その後、ダクト48の外側を通過して、再び、上記開口部から羽根車に取り入れられるという循環を繰り返すものと認められる。

そうすると、ファン20の下部にある羽根車の下方の開口部及びファン22の上部にある羽根車の上方の開口部は、それぞれファン20あるいは22における空気の吸込み口に当たるものであり、また、前者は、空気を下方から上方へ吸い込むために、その開口部が下方へ向いており、後者は、空気を上方から下方へ吸い込むために、その開口部が上方へ向いているのであって、本件訂正に係る吸込み口及びその吸込み方向は、上記のような意味を有するものとして、本件明細書及び本件図面に開示されていることが認められる。

(ニ) 被告は、本件訂正請求に係る「天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方に向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」という構成は、その表現からして、動作対象である空気を上方から下方に向かう方向に吸い込むことを意味するものであるところ、このような構成が本件明細書及び本件図面から明瞭とはいえない旨主張するが、上記認定判断に照らせば、被告の主張は、単に形式的な用語や表現方法を論難するものにすぎず、失当であることは明らかである。

(2)  吸込み口の「水平」な設置について

(イ) 本件明細書の特許請求の範囲には、「前記ケーシングの前後方向に走行する布帛等の帯状物」、「送風装置を帯状物の幅方向の中心における上方または下方の少なくとも一方に配し」とのとの記載があって、ケーシング及び送風装置の位置関係が発明の構成として記載されているものであるから、本件発明に係る熱交換器は、設置について方向性を有しており、少なくともどのように設置されてもよいというものではないことは明らかである。

(ロ) 次に、甲第5号証によれば、本件明細書中の実施例の説明において、「また、このダクト34bは後方に行くほどその高さが小さくなって、その天井面部は傾斜している。このように天井面部を傾斜させることにより、熱風がケーシング12の前後方向において、まんべんなく布帛Fに当たる。」(3頁6欄7行ないし10行)、「上部ダクト48bは、一端が前記下部ダクト48bに接続され、そこから、ケーシング12の前面に向かって延びている。この上部ダクト48bは前面に向かうほど、その高さが小さくなるように傾斜している。」(6欄42行ないし45行)との記載があり、また、本件発明の一実施例を示す熱処理装置の縦断面図である本件図面第2図によれば、熱処理装置ないしケーシング12は、水平に配置されているものとして記載され、布帛Fが、ケーシングを上下に分けて配され、ノズルボックス24、26が布端と所定の間隔をもち平行に記載され、ノズルボックス24に隣接して設けられている下部ダクト34bは、図面の左方から右方に行くほどその高さが低くなって、その天井面部が傾斜しており、同様に、上部ダクト48bは、図面の右方から左方に行くほどその高さが低くなって、その天井面部が傾斜していること、上記ダクトの傾斜を除けば、当該図面には、熱処理装置が傾斜していることを示唆するものはないこと、前記両吸込み口は、それぞれ、布綿Fと平行に開口しているように図示されていることが認められる。

(ハ) 以上に認定した事実によれば、本件明細書及び本件図面第2図には、本件発明の実施例として、熱処理装置を水平に設置し、送風装置の吸込み口も水平に設けたものが開示されているというべきである。

(ニ) 被告は、本件明細書においては、特許請求の範囲の記載中にも発明の詳細な説明の記載中にも、熱処理装置の姿勢に関する記載は一切ないのであるから、本件発明が熱処理装置ないしケーシングが水平に配されたものに限られるものでないことは明らかである旨主張する。

しかしながら、本件訂正請求においては、本件発明の請求項1について、送風装置の吸込み口を水平に設けるものに減縮されているにすぎず、審決は、熱処理装置ないしケーシングが水平に配されたものに限られるか否かといった点については何も判断していないのであるから、被告の上記主張は、審決の適否に関する主張としては、その前提を欠くものであって、採用することができない。

なお、被告は、本件発明の属する技術分野において、本件発明の熱処理装置と同様に布帛等の帯状物に熱風を当てて熱処理及び乾燥を行う熱処理装置の配置の方式としては、従来から、水平配置のほかにアーチ式配置、順次傾斜配置が知られていたことを前提として、本件明細書及び本件図面においては、「水平」の概念を読み取ることはできない胸主張するが、本件明細書及び本件図面第2図には、本件発明の実施例として、熱処理装置を水平に設置し、送風装置の吸込み口も水平に設けられたものが開示されていることは、前認定のとおりであるから、被告の上記主張は、採用することができない。

2  以上によれば、本件明細書及び本件図面によって、本件発明の請求項1に係る送風装置の吸込み口の設置されている位置や方向が明瞭ではないから、本件訂正に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1の「送風装置の吸込み口を、前記ケーシングの天井部及び底部における帯状物の幅方向の中心において水平にそれぞれ設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」という構成は、本件明細書及び本件図面に記載されていない新たな技術事項によって特許請求の範囲を限定するものであるとして、本件訂正請求は不適法であるとした審決の認定判断は誤りである。

そうすると、上記のとおり本件訂正請求は不適法であるとしたうえ、本件訂正前の特許請求の範囲に基づいて本件発明の技術内容を認定し、本件発明は審決書に摘示する刊行物から当業者が容易に発明することができるとした審決の認定判断は誤りであって、この認定判断の誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取消しを免れない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年2月25日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

[Ⅰ](経緯・本件発明の要旨)

本件特許第1909690号は、平成2年3月26日に出願され、平成6年5月11日に出願公告(特公平6-35708号公報)され、平成7年3月9日に設定登録されたものであって、本件発明の要旨は明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の【請求項1】および【請求項2】に記載された次のとおりの「熱処理装置にあるものと認められるところ、その【請求項1】に記載された発明は次のとおりである。

「熱処理室であるケーシングに設けられた空気の取入れ口、排出口及び空気を循環させる送風装置と、送風装置からの風を加熱する加熱装置と、

前記ケーシングの前後方向に走行する布帛等の帯状物に対し幅方向に延在しかつ帯状物との対向面に吹出し口を有した複数個のノズルボックスと、加熱装置からの熱風を複数個の前記ノズルボックスへ送るダクトとよりなる熱処理装置であって、送風装置を帯状物の幅方向の中心における上方または下方の少なくとも一方に配し、

複数個のノズルボックスを帯状物の長手方向に所定の間隔を開けて配列させ、

各ノズルボックスにおける吹出し口とは相対向する面の幅方向の中央部にダクトとの連結口を設け、ダクトをノズルボックスの幅方向より狭く設けると共に、複数個のノズルボックスの連結口とを連結させた、

ことを特徴とする熱処理装置」(以下、「本件発明」という。)

なお、被請求人が提出した平成7年10月27日付けの第1回目の訂正請求、および、平成8年6月26日付けの第2回目の訂正請求は、[Ⅴ]項に述べるように採用できない。

[Ⅱ](請求人の主張)

本件特許の特許請求の範囲の【請求項1】(第1項)に係る発明(本件発明)に対して、請求人は上記結論同旨の審決を求め、その理由として、甲第1~4号証および甲第7~10号証のを提出し、本件発明が、その出願前に頒布された上記各甲号証に基づいて容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきであると主張している。

[Ⅲ](被請求人の主張)

一方、被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人には利害関係が無く、請求人としての適確性を欠くものであり、また、請求人が主張する無効の理由によって本件発明が無効になるものではない旨を主張している。

[Ⅳ](請求人の適確性について)

被請求人は、請求人の適確性が欠いていると主張しており、本件審判請求が成立するか否かが問題となるので、まず、請求人の適確性について検討する。

被請求人の主張の概要は、現在請求人とは係争関係になく、本件発明に対して利害関係を有していなというものである。

これに対して、請求人は次の甲第5、6号証を提出して請求人適確を有すると主張しており、上記各甲号証の証拠方法およびその内容は、次のとおりである。

(1)甲第5号証:「加工機会・関連機器総覧91」加工技術研究会発行1991.7.10、第100~103頁

上記証拠には、請求人の営業品目を紹介しており、その一つとして「INOKIN FP・Hi-Floatドライヤー」が、「基材をフローティング状態で両面を同時に乾燥及び熱処理する装置」であることが記載されている。

(2)甲第6号証:請求人が作成した「技術導入契約の変更に関する報告書」抜粋

上記証拠には、請求人とダブリー・アール・グレース・アンド・カンパニーとが技術導入契約をしたことが記載されている。

そして、請求人は、本件発明と同種である甲第5号証の「熱処理装置」を製造販売の対象とする同業者であって、甲第5号証の「熱処理装置」は請求人の技術提携先であるダブリー・アール・グレース・アンド・カンパニーによる特許出願の出願公開公報の甲第1号証と同一のものであって、利害関係を有する旨主張している。

そこで検討すると、甲第5号証より、請求人が営業品目としいる「基材をフローティング状態で両面を同時に乾燥及び熱処理する装置」は、本件特許発明と技術分野を同じくすることは明らかであり、また甲第6号証により、本件発明と同じ特許分野の出願人であるダブリー・アール・グレース・アンド・カンパニーが、請求人にとって技術導入契約をした提携先であることも明らかであるから、請求人が本件特許発明と利害関係を有し、請求人適確を有するものと認められる。

[Ⅴ](訂正請求の適否について)

被請求人は、願書に添付した明細書及び図面に対して平成7年10月27日に第1回目の訂正請求を、平成8年6月26日に第2回目の訂正請求をし、これに対して、当審において訂正拒絶理由を通知し、更に被請求人は平成8年11月11日付けで意見書を提出した。

なお、請求人も、第1回弁駁書において第1回目の訂正請求は不適法であり、また、第2回弁駁書において甲第12号証を提出して、第2回目の訂正請求も不適法である旨主張している。

被請求人は、上記意見書において、乙第1号証~乙第7号証を提出して、第1回目の訂正請求をさらに訂正する第2回目の訂正請求が、適法である旨を主張しており、被請求人の提示した証拠方法は次のとおりである。

(1)乙第1号証:「機械工学便覧」社団法人日本機械学会発行昭和52.7.15、第1~10頁

(2)乙第2号証:「機械図集 送風機・圧縮機」社団法人日本機械学会発行 昭和51.1.31、第4頁、第38~39頁

(3)乙第3号証:「乾燥装置マニュアル」日刊工業新聞社発行 昭和53.5.30、第162~165頁

(4)乙第4号証:「機械工学基礎講座7流体機械」朝倉書店発行 昭和54.2.20、第104~108頁

(5)乙第5号証:「誰でもわかる解説と演習 流体力学と流体機械の基礎」啓学出版株式会社発行1977.12.15、第225~228頁

(6)乙第6号証:「JIS工業用語大事典」財団法人日本規格協会発行1983.2.1、第123頁、第1027~1335頁

(7)乙第7号証:「100万人の空気調和」オーム社書店昭和54.4.10、第129~131頁

そして、上記拒絶理由および意見書の内容はおおよそ以下のとおりである。

まず、第2回月の訂正拒絶理由の概要は、『訂正しようとする「送風装置の吸込み口を、ケーシングの天井部及び底部における帯状物の幅方向の中心において水平にそれそれ設け、天井部にある吸込み口の吸込み方向を下方へ向け、底部にある吸込み口の吸込み方向を上方に向け」た構成において、登録設定時の明細書には「送風装置」あるいは「ファン20、22」とあるだけで、「送風装置の吸込み口」および「水平」との文言はなく、ましてや「吸込み口」に関する説明の記載はない。また、第2図、第3図には「ファン20、22」と図示されたものの付近に、「吸込み口」らしきものが図示されているが、第2図、第3図が断面だけであって、明確に読み取れるものではない。

したがって、上記の訂正は、登録設定時の明細書および図面に記載されていない新たな構成を限定するものであって、形式的には特許請求の範囲の減縮であっても、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、特許法第134条第5項で準用する特許法第126条第3項の規定に適合しない。』というものである。

これに対して、上記意見書の概要は、『第(1)点として、第1図の斜視図のファン20において、上面および側面に吸込口がなく、第2図にはファン20の底部が開口しいるから、吸込口が下方に向かってもうけられていることが明確であること、第(2)点として、第3図のリターンエアーは、ファン20の方向に矢印で記載され、明細書15頁16~19行に「すなわちリターンエヤーは~~天井部に設けられたファンの位置に戻ってくる」と記載されていることから、上記の訂正の構成は、登録設定時の明細書および図面の記載から明確に読み取れる』というものである。

そこで検討するが、上記意見書の第(1)点については、第1図は斜視図であって、側面の全てが見えているわけでもなく、底部の詳細が図示されているわけでもないから、吸込口が下方に向かって設けられていることも想定できるが、見えていない側面に設けられていることも否定できず、明確に断定できるものではない。また、第(2)点についても、確かに、リターンエヤーは天井部に設けられたファンの位置に戻ってくるとの記載は認められるが、だからといって、この記載だけからは、吸込口が下方に向かって設けらているとは限定できない。

更に、羽根車の軸方向から空気を吸い込み、羽根車の回転方向に送風するファンは、遠心ファンと言われその構造は技術常識であるとして、乙第1号証~乙第7号証(各乙号証には、気体が羽根車の半径方向に通過して昇圧する、いわゆる遠心ファンについて記載されている。)を提出しているが、本願明細書にファン20が遠心ファンであるとする記載はない。

したがって、上記意見書の内容を検討しても拒絶の理由は解消しておらず、上記の第2回目の訂正請求は不適法であり採用できない。

また、被請求人は、上記の第1回目の訂正請求が拒絶理由において「本件特許出願の際独立して特許を受けることができず、特許法第134条第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合しない」と指摘されたために第2回の訂正請求を行った(平成8年11月11日付け意見書2頁(2)項<1>)としており、第1回目の訂正請求は実質的に取下げられたものとみなされるから、第1回目の訂正請求も採用できない。

[Ⅵ](無効理由について)

次に、請求人は、甲第1~4号証および甲第7~10号証を提出し、本件発明が、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、無効とされるべきであると主張しているので、この点について検討する。

[Ⅵ]-1(請求人の提示した証拠方法)

請求人の提示した甲第1~3号証の証拠方法およびその内容、並びに、甲第4号証、甲第7~11号証の証拠方法は次のとおりである。

(1)甲第1号証:特開昭28-168879号公報(昭和58年10月5日公開)

上記証拠には、「筐体6に設けられた空気を循環させる送風機9と、前記筐体6の前後方向に走行する帯材5に対し幅方向に延在しかつ帯材5との対向面に吹出し口を有した空気バー7と、送風機9からの空気を空気バー7へ送るヘッダ10とよりなる処理装置であって、前記送風機9を、前記筐体6の天井面、または、底面における帯状物の幅方向の中央部において、帯状物の幅方向の略中央部の少なくともどちらか一方に設け、送風機を帯状物の幅方向の中心における上方または下方の少なくとも一方に配し、複数個の空気バー7を、帯状物の長手方向に所定の間隔を開けてそれぞれ配列させ、各空気バー7における吹出し口とは相対向する面の幅方向の中央部にヘッダ10との連結口を設け、ヘッダ10を空気バー7の幅方向より狭く設けると共に、複数個のノズルボックスの連結口とを連結させた処理装置」が図面とともに記載されている。

なお、被請求人は、送風機9が筐体6の天井面、または、底面に設けられていない旨主張しているが、Fig1およびFig2において、明らかに送風機9は筐体6の天井面および底面に固定されている。

(2)甲第2号証:実願昭58-116766号(実開昭60-25890号)のマイクロフィル(昭和60年2月21日発行)

上記証拠には、印刷物等の帯状物の乾燥装置において、開口部14から空気を取り入れ、排気ファン12により排気口から空気を排出する装置、および、送気ファン5からの空気を加熱バーナ6により加熱する装置が記載されている。

(3)甲第3号証:特開平1-267040号公報(平成1年10月24日公開)

上記証拠には、印刷物等の帯状物の排煙装置において、空気路27から空気を取り入れ、送風機11により排気口から空気を排出する装置、および、送風機8がらの空気を加熱装置9により加熱する装置が記載されている。

(4)甲第4号証:米国特許第3、873、013号明細書

(5)甲第7号証:特願昭58-38383号(特開昭58-168879号)の願書及び図面

(8)甲第8号証:米国特許第4、425、719号明細書

(9)甲第9号証:特開昭52-19361号公報

(10)甲第10号証:「乾燥装置マニュアル」日刊工業新聞社発行、昭和53.5.30、第35~39頁

(11)甲第11号証:特開平1-99665号公報

[Ⅵ]-2(対比)

そこで、本件発明(以下、「前者」という。)と甲第1号証の発明(以下、「後者」という。)とを比較検討するが、後者の「筐体(6)」は、前者の「ケーシング(12)」に相当し、同様に、「送風機(9)」は「送風装置.ファン(22)」に、「帯材(5)」は「布帛等の帯状物」に、「空気バー(7)」は「ノズルボックス(24、26)」に、「ヘッダ(10)」は「ダクト(48)」にそれぞれ相当するから、結局、両者は

「ケーシングに設けられた空気を循環させる送風装置と、前記ケーシングの前後方向に走行する布帛等の帯状物に対し幅方向に延在しかつ帯状物との対向面に吹出し口を有した複数個のノズルボックスと、送風装置からの空気を複数個の前記ノズルボックスへ送るダクトとよりなる処理装置であって、送風装置を帯状物の幅方向の中央部における上方(天井面)または下方(底面)における少なくとも一方に配し、複数個のノズルボックスを、帯状物の長手方向に所定の間隔を開けて配列させ、各ノズルボックスにおける吹出し口とは相対向する面の幅方向の中央部にダクトとの連結口を設け、ダクトをノズルボックスの幅方向より狭く設けると共に、複数個のノズノレボックスの連結口とを連結させた処理装置」において一致し、次の点で一応相違する。

(1)前者には、空気の取入れ口(28a)、排出口(28b)とが設けられているのに対して、後者にはこの点の記載がない点

(2)前者には、送風装置からの風を加熱する加熱装置(36、52)が設けられているのに対して、後者にはこの点の記載がない点

[Ⅵ]-3(相違点の検討)

次に、上記相違点について検討する。

[相違点(1)について]

甲第2号証には、印刷物等の帯状物の乾燥装置において、開口部14から空気を取り入れ、排気ファン12により排気口から空気を排出する装置が記載されており、また、甲第3号証には、印刷物等の帯状物の排煙装置において、空気路27から空気を取り入れ、送風機11により排気口から空気を排出する装置が記載されており、これら甲第2、3号証の空気を取り入れる取入れ口と排出口を設けた構成を、甲第1号証の装置に用いることは、甲第1号証の装置と同じ帯状物の乾燥処理に関するものであるから、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎず、これによる効果も予測される範囲を越えるものではない。

[相違点(2)について]

同様に、甲第2号証には、印刷物等の帯状物の乾燥装置において、送気ファン5からの空気を加熱バーナ6により加熱する装置が記載されており、また、甲第3号証には、印刷物等の帯状物の排煙装置において、送風機8からの空気を加熱装置9により加熱する装置が記載されており、これら甲第2、3号証の送風装置からの風を加熱する加熱装置を設けた構成を、甲第1号証の装置に用いることは、甲第1号証の装置と同じ帯状物の乾燥処理に関するものであるから、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎず、これによる効果も予測される範囲を越えるものではない。

なお、被請求人は、甲第2号証の装置は、加熱装置、送風装置、ダクトの位置関係が不明であり構成も明確でなく、また、甲第3号証の装置は、加熱装置、送風装置、ノズルの構成が異なる旨主張しているが、上記相違点での甲第2、3号証の認定においては、甲第2、3号証の装置においての位置関係を含めた具体的構成を引用しているのではない。

[Ⅵ]-4

したがって、上記相違点(1)(2)は設計的事項にすぎないから、本件発明は、請求人の提出した甲第1号証、甲第2号証、および、甲第3号証の刊行物から当業者が容易に発明することができたものという外はなく、本件発明は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を受けることができない。

[Ⅵ](結び)

以上のように、本件特許の特許請求の範囲の【請求項1】に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、本件特許の特許請求の範囲の【請求項1】に係る発明は、無効とすべきものであるから、結論のとおり審決する。

別紙図面

<省略>

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